長期的には皆死んでしまうけれど、官僚機構は思っているよりも色々なものに縛られている

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 インタゲを導入すれば問題が解決すると考えている人達がいるようですが、単純にインタゲを導入するだけでは、リフレは達成されないと考えています。そこで、リフレを実現するためには、どのようなことに配慮したインセンティブ構造に変化させなければならないかについて考察していきたいと思います。
 
 現在の日銀を巡るインセンティブ構造をインタゲ導入を中心に考えてみます。なお、天下りについては私は主要なインセンティブとはならないと考えていますので、考慮しません。

 (現在の)日銀の行動を左右する要因として以下のとおり私は認識しています。

1 デフレを安全に解消する手段について、経済学では定説が無い。
2 万が一にもインフレ率のコントロールに失敗すると国会やマスコミから強く非難される。
3 どの程度の目標インフレ率に誘導すべきか、立法府・行政府間での了解がない。
4 目標インフレ率の決定には経済学的だけではなく政治的な働きかけが強い。
  (言い換えると、経済学的に不適切な決定がされる恐れがある。)
5 国民に金融政策の重要性について理解してもらうことは困難である。むしろ反対に近い。
6 デフレ解消に際して、資産価格の上昇が大きかた場合に、日銀への(経済学的には理不尽な)批判が起こる可能性が一定以上ある。

そうなると、日銀が直面するデシジョンツリーは(ハイパーインフレにならないとしても)以下のようになります。

大幅な金融緩和に伴ない、
 1 マイルドなインフレから
  −1 資産価格の急上昇の無い景気回復 → 無事に景気回復できたのは、競争力を増した企業努力の積み重ね説が国民の認識。
  −2 資産価格の急上昇のある景気回復 −1 資産価格の急上昇に対応しない
                     → 対応しない日銀は庶民の敵。
                     −2 資産価格の急上昇に対応した引き締めを行う。
                     → 資産価格の下落が当初は賞賛されるが、その後、景気が低迷すると非難の対象となる可能性。

 2 急速なインフレの進展により
  −1 引き締め遅れに伴なう、急激な経済の拡大から乱高下へ
  −2 適度な引き締めを行いマイルドなインフレへ
  −3 過度の引き締めによるオーバー・キルへ

 この中で、日銀にとって望ましいのは、1−1か(資産価格の急激な上昇を伴わなければ、伴った場合には1−2と同じ)2−2となります。日銀の行動を左右する要因の1により、この結果を出すことは難易度が高そうです。このため、資産価格の急上昇や一時的にインフレ率が進展することを許容することなしには、日銀にとってはあまり、望ましい選択肢では無いのではないかと認識しています。

 結論として、「資産価格の急上昇」「一時的な急速なインフレの進展」の国民的(より特定すれば国会での)許容無しには、難しいのではないかというのが私の認識です。実際に、前回日銀が金融緩和を行ったのは当時の小泉首相の強い指示がありました。「構造改革を行っている最中の国の通貨が高止まりするのは不自然」との小泉首相の確信が国会や世論から日銀を守っていたのではないでしょうか。そして、目標も実施についても、全て上手くやれよ!と日銀にぶん投げてしまい、お互いに矛盾する目標であったとしても、うまく行かなければ非難するだけの構造ではダメなのでしょう。

 残念ながら、現在の日本ではマクロ経済政策のついての理解している政治家よりも、空気を掴むためなら何でもするという政治家の方が多いのではないかという気がしてなりません。そのような状況下でインタゲを導入したから大丈夫と思うのは、問題ではないでしょうか、何故なら「資産価格の上昇の恩恵を受けなかった庶民の怨念に応えようとする政治的圧力を跳ね除けられるようなカリスマを持つ政治家はいません。」そして目標インフレ率の決定は政治的に行われる可能性が高いのですから。もし、インタゲだけではなく、インタゲが実現される仕組みとして導入されないかぎり、「インタゲは無意味だった。」という認識が広がり、きちんとしたリフレが行われる可能性が遠ざかることを懸念してしまします。小泉首相のように「○○さんがこう言うんだから、それが正しいのだろう。」と思ってもらえる人がいれば良いのですが、このため、上記の二つの圧力から守るために、制度や行政府からの強いコミットメント(行政府としてもデフレ解消を第一に金融政策と連携した財政政策や政府紙幣の発行等を行うことにより示せるのではないでしょうか)を整える必要があると思います。
 また、マネタリー・ベースを増やし、実質的にリフレが行われるようなより、政治的に導入しやすい仕組みについても検討しはじめる時期なのかもしれません。国民が懐疑的な場合には現状の政治状況でインタゲ等のリフレ政策の導入はハードルが高いと思われるからです。実質的に導入しやすい、新たなリフレ政策よりもインタゲの方が実績もありますし、「リフレやインタゲをキチンと行うことの大切さが、ほぼ学会での統一見解とする。」ことによっても日銀は「専門家の間での統一見解として、金融政策の決定においては資産価格の急上昇よりもインフレ率を重視すべきとなっているORデフレからの脱出時にはインフレ率の急上昇は許容すべきとなっている。」と答えることが可能であるため日銀は非難を浴びないでしょう。

 最後に欧米での迅速な金融緩和についてですが、基本的に日本の失敗を教訓として景気の急速な減速には迅速な金融緩和実施の必要性については専門家の間で程度の差こそあれ、それなりのコンセンサスが出来ていたと思います。デフレに陥ることを防ぐのと、デフレからの脱出とでは異なることと、日銀が他の中央銀行と比較して大きな圧力に晒されていることは確かなので、庇護に十分なコミットメントを構築することが、行き過ぎた緩和策となる可能性がある政策を日銀に求めるためには、実効性確保の上で必要なのでしょう。

 蛇足ですが、そうは言っても、不人気な政策を導入するためには、「不人気な政策を導入しても、落選しずらい選挙制度」、「国政選挙までの長い期間」又は「強いリーダーシップが必要」のいずれかか、複数が必要ですが、それは望みづらい状況ですよね。まぁ、私としては日本人的にうまく利害を集約するシステムとして中選挙区は非常に優れたものだったんでしょうねと認識しています。与党内で不人気な政策がキチンと議論されたりしたのですから。ちょっとづつ書いていたので、全体として論旨が不明確でしたら失礼。