世代間の隔たりと経済環境

国内の顧客に依存している組織では官民問わず、
上層部が「これからの我社の進むべき道は、どうあるべきか検討すべき時期に来ている。これまでのビジネスモデルの崩壊が間近に迫っている。」との危機感を表明し、「中堅〜若手」の実際の現場に一番向かい合っている世代に「次のビジネスモデルについて検討」するよう指示を出す一方で、
中堅〜若手世代は「売上や利益が伸びず会社が苦しいのは分かるけど、採用数も抑えられて通常業務も忙しく、今の業務に対する顧客の要求水準も高まるばかりで新しいことに取り組む余裕なし。」という反応をしている場合が多い気がしている。

そして、こういった中堅・若手の反応に対して上層部(〜中間管理職層)は「俺たちが若手だった時には、どうしたら顧客の要望に答えられるかを毎日寝る間も惜しんで考え、悩み、応えることで成長していったし、こういう若手の頑張りが組織を活性化し、結果として新しい事業での成功や売上増・利益増に繋がった。今時の若手は忙しい、忙しいばかりで自分で仕事を創りださない。」なんていう不満を持ち、
一方、中堅・若手は「これまでもいくつかプランを提出はしたけど、殆どコスト削減の大号令の下、稟議が通らなかったじゃないか。そもそも会社がどっちに行ったらいいかなんて俺たちに聞かれても、今直面している現場のことは分かっても全体像なんて分からないし、困っちゃうよね。第一、会社としてのビジョン自体が見えない中で、新しいことを試みても「うちらしくない」とか訳の分からないことを言われる。人も金もケチって何いってんの?」という不満を持っている。

こういったことがどうして起きるのかというと、別に上層部が思っているように「今の若手が昔の若手よりも能力や資質で決定的に劣っている。」ってことでは無いと思うんだよね。では、上層部が思っているようなかつて行っていた「新しい取組・事業」と今若手に求められている「新しい事業・取組」の違いは何かというと、
『かつての新しい事業・取組とは、「そもそも新しいビジネスモデル」ではなく、先人が築いたビジネスモデルの上に「新しい商品・サービス」をどう売っていくか。』という点に集約されるのではないかと考えています。

こういった違いが、組織体制自体にも現れている。つまり国内マーケットが成長し続けていた時代では、自分たちの会社自体のビジョンを明確にしなくても、自然と売上が伸び易い環境にあるため、売上を伸ばすと職場で認められ、周囲から承認されるわけです。このため、自分たちの会社が生み出す価値って何かというビジョンなんてものを掲げなくても、頑張って働くことが周囲からの承認や承認に伴う昇進・昇給に繋がるため組織への忠誠心も自然と高まり、猛烈サラリーマンを生み出すこととなります。

こういった組織を効率的に動かすためには、「現場に直面している中堅・若手」に猛烈な競争を課していくことが非常に重要です。つまり「アイツはエリートで、俺はダメ」といった差を若手のうちに作ってしまうと「エリートとなった奴は頑張るけど、そうでない層は頑張らない」といった形になってしまいうため、いかに頑張る現場を創りだすかが勝負の分かれ目ですから会社は成長できません。つまり、年功序列制で中堅・若手のうちはさが見えにくい組織が有利になります。そしてある程度優秀な中堅・若手のさらなる頑張りが上層部にとっても成功につながるため、「お前にはこういった仕事も任せる」といった形で権限と責任にグレーゾーンを造りだすことで、もともと周囲からの承認という自己実現というインセンティブが働いている組織ですから「さらなる現場の頑張りを生み出す」ことにつながります。現場の頑張りだけでは、市場自体の縮小には対応できないことが、現在の賃金制度の変化の主要因でしょう。

さて、こういった環境で成長した上層部ですから、「会社としてのビジョンとは何か?」、「我社が生み出している価値とは何か?」といったことを考えずに今の「会社(組織)としてあるべき方向性を考えなければならない役職」については今でも「ビジョン」や「価値」といったものについて考える訓練を積んでいません。そのため、これらのことを説明する必要が出てきた場合にも当然説明できないし、フリーズしていまいます。そこで、かつての自分たちの上司が行ったように「若手に考えさせれば良いんだよ。」といった「組織に染まっていない若い柔軟な発想を活かそう」なんて考えしかできません。

逆に若手は「次にどうしたら良いかなんて、俺たちは現場で何が起きているかは詳しくても会社全体としてどうしたら良いかなんて、全体の状況が分からないんだから、どうしようもないよね。右に行くか、左に行くか決めたら、それをどう現場でやるかは考えられるけど。」(実はこれって、かつての若手(今の上層部)がやっていたことと一緒。)といったことになっている。一生懸命考えたからといって「予算が限られた中で、十分な検証もできないし、実際にワークするか気軽に試すこともできない。」といった状況では「忙しいし、適当にお茶を濁して終了」となってしまうのも当然です。

今比較的元気な企業にグローバル展開を行っている企業が多いのは「うちは○○をやる会社」ということを海外展開を行う際に進出先で語る必要があったからです。このためどうしても「自分達は何者か」ということを考える必要性に直面し、解決してきた企業が殆どだからでしょう。海外展開に成功している一部の企業では、成功した国で、進出した子会社の社長が自分で勝手にビジョンを創り、自分の言葉で現地従業員に語ったという話しも聞いたことがあります。そして、そういったことが語れる経営者の人気が(若手からも)出ることは、自分達の会社の上層部が語れないことの裏返しではないかと思っています。

といったことを、飲み会での1自慢話2説教と3愚痴を聞きながら、ここ2,3年考えていました。
ところで、困ったことが一つあり、「したことないんだから、出来ないよねぇ〜」という結論に達したのは良いが「上層部としての仕事をしないのに高い給料貰ってんじゃねぇ。てめぇはリーダーとしての仕事をキチンとしろ。」と思ってしまう感情は抑えられないんだよねぇ。

本日の結論【人材の差よりも置かれた経済環境の差が世代間の違いを生み出している可能性が大きいのではないか。】